6人の女たちは、他に行くところなんてないのに、と口々に言い、それでも最終的には最小限の着替えや個人の荷物をバッグに詰めて出て行った。私は、ちょっとシャレにならないかな、と思いながらどうすることもできなくてぼんやりその光景を見つめた。
「この人はいいの?」
啓介が残った一人の女をあごで指した。女は、少しおびえた目で私を見た。
「その人は女中に使うからいい」
「せっかくだから出て行ってもらっても俺はいいけど」
「ばかなの? 私がいいって言ってるの」
「そっか、おっけー」
啓介がまた立ち上がり、冷蔵庫を開けてチーズを皿に入れて持ってきたのを見て、チーズだけじゃなぁ、なんてわがままが沸き上がってきていた。
「チーズだけじゃなー」
「あぁ、そうだね。ちょっと行けばお店もあるから他になんでも買ってくるよ」
そう言う啓介のそばで女がもじもじしているので、私はくつ下を脱いで、バッグからハンカチを出し、なんなら薄手のニットも脱いで、床に放った。女は、察したように、それらを拾って綺麗に畳んだ。女は足をつったようにびっこをひいているように見えた。
啓介はポケットに鍵を入れて、急いで出掛けていった。
「ねぇ、あなたさ、ここに住んでるの? もしさ、私が明日からここに住むことになりますってなったら、家賃払ってくれるの? ごはん作ってくれるの? 洗濯も掃除も、これまでしてたのかもしれないけど、私が来ても変わらずにするわけ?」
私が聞くと、女は、はい、と頼りなく答えて、片足を少し不自由そうに隣の部屋に移って行った。
啓介の部屋はさっきまで人が何人もいたとは思えないほど綺麗に片付いていた。世の中にはこんなにおかしい人たちがいるんだなぁ、それに比べたら自分なんてまだまだ真っ当に生きてるわ、とへんなところでほっとして、カクテルをゆっくり飲んだ。
しんとした部屋に慣れなくて、テレビを付けると、音楽の特番をやっていて、アイドルの後ろで演奏をしているバンドの人たちは顔もよく見えないけれど、なんだか生き生きして見えた。この人たちは、どんな人生を送って、どんな努力をして、テレビに出ているのに名前も知られないで子供みたいな子達のために力強く楽器を弾いているんだろう、と画面をじっと見つめた。
しばらくして玄関を勢いよく開けて戻って来た啓介の手には、いっぱいの買い物袋がって、コンビニとスーパーと少し高級なスーパーをはしごしてきたのが分かった。