小説

『花びらを蹴散らして』柿沼雅美(『桜の森の満開の下』)

 キャッキャした美夏たちを見ていると、隣にスッと男が座って来た。
「あ、どうも、私もさっき来たところで」
 誰だっけ、と思いながら、男を見る。目が少し細めだけど嫌味のないあっさりとした顔つきをしている。こういうのを塩系とか言うんだろう。男は、細身の体で背負っていたリュックをシートの上に置いた。
「俺にもビールちょうだい」
 男に気づいた後輩が、レジ袋からビールを出してリレーのようにビールが近づいてくる。
「いいねぇやっぱ花見は。おひさしー」
 男が手を伸ばすと、OGたちがこっちを見て、どうもっす、うぃっす、と小さく会釈をした。
「これすごいね、思いつかなかったよ」
 段ボールテーブルを褒めると、美夏が、ですよねーはじめましてー1女でーす美夏でーす、と首を傾けて言った。
「どうもー」
 男はめいいっぱい手を伸ばして美夏と乾杯をし、私の隣、シートの隅っこに座った。
「あの子、いつもあんな感じなの?」
 男が私を見ながらビールを飲む。
「美夏ちゃんですか? あんな感じって?」
「ふわふわしてクネクネして首が不安定な感じ。食べながらあんなじゃそのうち首取れるんじゃないの?」
 あぁっ、と思わず私は噴き出した。
「ははっ、そうですね。いつもあんな感じです。かわいく見せようとしてるんですよあれは、わかってあげてください」
 へーあれで、と男がビールを飲みながら美夏を見て、ちょっと笑った。
 他のOGの男の人たちと違って、美夏のかわいく見せる仕草にひっかからないところに良い印象を持てた。
「あの、お名前聞いてもいいですか」
「あぁ俺ね、えっと、啓介。坂戸啓介」
「坂戸先輩、何期卒ですか?」
「啓介でいいよ、先輩とか後輩とか面倒だし。君は?」
 私の話はほとんど聞いていないようにビールを飲みながら私を見た。
「あ、玉田ひかるです」
「だから、ですます調じゃなくていいって」
「えっと、じゃあ、今日はお花見の席なので無礼講ってことで」
 ふっと啓介が鼻で笑う。

1 2 3 4 5 6 7 8 9