小説

『寒戸のガングロ』室市雅則(『遠野物語』)

 「イベサーのエムティーでオールだから行かないとヤバい」
 「は?」
 ガングロ以外の三人が声を揃えた。
 皆、何が何だか分からなかったが、とにかくここから去ることだけは分かった。
 玄関に向かうガングロ。
 父親も母親も諦めて、素直に見送ることにした。
 かける言葉を両親は見失っていたが、妹は素直に尋ねた。
 「姉ちゃん、来年はけえって来るか?」
 『姉ちゃん』と初めて呼ばれたことがこそばゆくもガングロは嬉しかった。
 「うん、皆んなの顔見に来る」
 「おどちゃ、かっちゃ、よがっだな」
 妹は両親の顔を見上げた。
 二人とも小さく頷いた。
 「おっつー」
 ガングロが手を挙げた。
 ブレスレットの音を鳴らして、ガングロは出て行った。
 去年と同じように雨と風が酷かったが、その中に消えて行った。
 そして、やはりガングロがいなくなるとピタリと雨風が止んだ。

 入れ替わるように一家の元に町長がやってきた。
 町長は農民、町民の代表として一家に頼み込んだ。
 「ガングロが町に帰って来ないようにして欲しい」
 ガングロが帰郷するたびに米はおろか他の農作物への甚大な被害、交通の混乱が巻き起こり、種々の大損害が被られてしまい、それを阻止したいという理由であった。
 ガングロが嵐の原因である証拠はなかった。
 しかし、確かにガングロが現れると嵐が暴れ、去ると嘘のように落ち着いたことは事実であった。
 さらに、親子の問題に他人が首を突っ込み、かろうじて繋がっている関係を断ち切ろうとすることなど言語道断で、通常の父親であれば激昂していただろう。しかし、役場勤めだからこそ、父は町のこと、人々のことをよく分かっており、今年も大きな被害が発生したことを感じ取っていた。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11