小説

『寒戸のガングロ』室市雅則(『遠野物語』)

 そう、十年前に失踪した少女がガングロギャルになって帰って来たのだ。
 母親は卒倒してしまった。だから、少女いや、ガングロは母親のカバンから鍵を取り出すと母親を立ち上がらせ、家の中に入っていった。

 ヨレヨレになりながらも母親はすぐに夫の携帯電話に連絡をした。
 もちろんガングロを信用したわけではなかったが、母だからこそ感じ取ることができる面影をすくい取ったのだ。
 ガングロは居間に置かれた仏壇の祖母の遺影に向かって手を合わせていた。
 「ばあちゃん、ごめんね」
 鈴を鳴らすと茶卓に向き直り、ガングロは出された紅茶を飲み始めた。
 「いやー、バビッた?」
 母親に尋ねるガングロ。
 しかし、母親は戸惑っていた。
 喜びはもちろんあったのだが、彼女が何を言っているのか分からなかった。
 どうしようかと逡巡していると父親が大慌てで飛び込んで来た。
 そして、襖を開けて止まった。
 ガングロは笑顔で手を振っている。
 「超おひさ」
 父は驚くばかりであった。
 恐る恐るとガングロに近づき、父はその肩に手を置き、瞳を見つめた。
 「たまげたのす」
 そして、父はガングロに様々な質問をした。
 確信を得たかったのだ。
 名前に始まり、生年月日など失踪した当人にしか分からぬことを細かく尋ねた。
 ガングロは見事にそれに答え、両親は行方不明になった娘であると結論づけた。
 「今日はまんつおもしぇ日だ」
 両親は歓喜し、娘を抱きしめた。
 ガングロはガングロで喜び、両親の温もりを感じ、ボリューム満点の付けまつ毛が載った瞼をしぱたかせた。
 「やっぱ家族ってアガる」
 涙が頬を伝ってガングロの素肌がうっすらと姿を見せた。
 「なしてけってきた?」

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