いつの間にか首なし姫の噂話を聞かなくなってしまった。学校のみんなは次の噂話を追いかけるのに忙しいのだろう。無趣味だった僕は、たまに一人で隣駅のボーリング場に行くようになり両親に驚かれた。
一度だけ、姉の元彼ぴっぴにボーリング場で会った。向こうは僕の顔なんか知らない。だから僕はいつでもそれを相手の顔面に叩きこめるように持ちながら彼に声を掛けた。
「ボーリング上手なんですね、得意なんですか?」
彼のスコアは僕よりひどいものだった。彼は突然知らない男に声を掛けられたことに驚いているようだったが困ったような笑顔で答えてくれた。
「いや、なんでか突然始めてみたくなっちゃって」
僕は適当に返事をして自分のレーンに戻り、姉のことを思い出しながらボールを放った。スプリットだった。二投目のボールを持ち、僕はまるで精神なんて統一しているみたいに目を瞑る。けれど考えているのはボーリングのことじゃない。考えているのは、姉のことだ。僕は願っていた。
姉さんが、どうか海に辿り着いていますように。