小説

『赤と、青と、黄色の』佐久間クマ(『檸檬』)

 ユキちゃんがあの日から学校に来ることはなかった。だから机に置かれた檸檬のことでちょっとした学年集会が開かれたことも、学校で飼ってたニワトリの卵が檸檬にすり替えらたことも(きっと飼育委員のイタズラ)、その飼ってたニワトリが脱走したことも、ユキちゃんは知らない。ユキちゃんによって爆破された教室は、今でもそうやって何かが生まれて何かが消えてを繰り返している。が、ユキちゃんにとってそんなことはもうどうでもいいのだろう。私はそんな生と死が混ざり合う教室で今日も沈黙を守っている。次は化学の時間だから机から教科書を取り出したとき、ひらりと一枚紙が落ちた。それはいつかの実験のリトマス紙だった。青が赤く染まったその紙は、少しだけ檸檬の香りがした。

1 2 3 4 5 6