テシガワラ社長の日課は、部下を叱ることだ。毎日毎日、飽きもせず、部下の不手際に目を光らせ、昏々と説教をしている。
最近は、数日前に社長室に異動してきたばかりの、クスノキという入社二年目の男がターゲットだった。クスノキはまだ二十四歳と若く、少し注意力が足りないところもあって、小さなミスを一日に5回は起こしていた。
テシガワラ社長に説教をされたクスノキは、十日程経ったある日、とうとう耐え切れずにテシガワラ社長を睨んでしまった。テシガワラ社長はそれを見逃さなかった。
クビを言い渡されたクスノキは、去り際、意味深な言葉を残した。
「そろそろ気をつけたほうがいいですよ。止まれなくなりますから」
「何だそれは! どういう意味だ!」
テシガワラ社長の問いかけには答えず、クスノキは不敵な笑みを浮かべ、姿を消した。
その翌朝。AM5:30。いつものように、テシガワラ社長の目覚まし時計が鳴った。テシガワラ社長が目覚まし時計を止めると、ナミコが来て、一杯の水を差し出す。そして、水を飲んだテシガワラ社長の第一声が寝室に響き渡る。
「厚切りトースト! いちごジャム! 目玉焼き! たこさんウインナー!」
「はい、ただいま」
テシガワラ社長は、もう一度ベッドに横になり、寝息を立て始める。眠りながら、すり寄ってきた猫のアサヒの肉球をプニプニ触る。いつも通りの朝だ。
しかし、テシガワラ社長はそこで異変に気付き、ぱちっと目を覚ます。
まだ布団の中にある足が、ピクピクと痙攣している。アサヒが足を舐めているのだろうかと思ったが、アサヒはテシガワラ社長のすぐ横で寝息を立てている。
怪訝な顔で布団を捲ったテシガワラ社長は、「あっ」と声を上げた。
テシガワラ社長の両足に、小指サイズの小さな人間たちがまとわりついていたのだ。
「な、なんだ?!」
その声に、小さな人間たちが一斉にテシガワラ社長を見上げる。テシガワラ社長は、その小人たちの顔を見て、また「あっ」と声を上げた。小人たちの顔はみな、テシガワラ社長が昨日クビを言い渡したクスノキの顔をしていた。幻覚でも見ているのだろうかと、テシガワラ社長が頭をぶるぶると振り、再度足元に目を凝らすと、まとわりついていたはずのクスノキたちが忽然といなくなっている。