「た、助けてくれー!」
テシガワラ社長の叫び声が辺りにこだました。
すると次の瞬間、誰かがテシガワラ社長の両足を掴んだ。
テシガワラ社長が後ろを振り向くと、先ほど突っぱねた小学生たちが、テシガワラ社長の服や腕を必死に掴んでいた。
近くで固唾を飲んでいた他の小学生たちもわらわらと寄って来て、テシガワラ社長を掴んでいる生徒たちのランドセルを掴み、綱引きのように「よいしょ、よいしょ」と、地上へ引き上げはじめる。
周りの野次馬や救助に来ていた人たちも、その子供たちに加勢する。
「よいしょ、よいしょ」
先ほどまで怒号を飛ばしていた運転手や警官たちも加わった。
程なくして、テシガワラ社長の体がようやく車道へ引き上げられた。
テシガワラ社長は、腰が抜けたようにへなへなとその場に座り込み、人目もはばからず、思い切り泣き出した。まるで赤ん坊のようなその泣き声は、それから一時間余りも続いた。
テシガワラ社長の足は、もう動いていなかった。
AM5:30。テシガワラ社長の目覚まし時計の音が鳴った。
テシガワラ社長が、目覚まし時計を止める。ナミコがコップ一杯の水を持って部屋に入ってくる。テシガワラ社長はその水を飲み干すと、開きかけた口を閉じ、ナミコを見つめた。
ナミコが不思議そうにテシガワラ社長を見つめ返すと、テシガワラ社長は苦笑まじりに、「やめよう」とナミコに言った。
ナミコは、まばたきを数回して、「そんな料理は知りませんわ」と答える。テシガワラ社長は、首を横に振る。
「メニューじゃない。やめよう、と言ったんだ。今日くらい、どこかへ一緒に食べに行かないか?」
ナミコに優しく問いかけるテシガワラ社長を見つめ、ナミコはまだ戸惑っている。
「いいじゃないか。な、どこがいい?」
再度テシガワラ社長が訊くと、ナミコはようやく破顔した。
「どこへでも、あなたと一緒なら」
テシガワラ社長とナミコは、照れ臭そうに笑い合った。
「着替えようか」
「はい」