小説

『孤児と聖母』明根新一(『母子像』)

 僕は悲しくなって母の胸から口を離した。母の目を見つめる。どうしてこんなに醜い表情をしているのだろうか。またいつものように、女神のような美しい笑顔を見せてくれたらいいのに。
 僕は口づけしようと、彼女の唇に顔を近づけた。その時、世界が一瞬、揺れたような気がした。母の顔がかすんで意識が遠のいていくのが分かった。だしぬけに涙がこぼれて、その滴が母の頸筋に流れた。そうして僕は、母の体の上に倒れた。

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