「お子さんはいらっしゃらないと養育費もかからなくていいわよね」
「え!?海外にいるとか聞いたことがあるけど」
「あ、そうなの」
「そういうことなんだ」
「やっぱり違うわよねぇ」
「どんぶらこ、どんぶらこ」
お腰につけたきびだんご、ひとつくらい私にくださいな。
まるで金環日食のように、大きな妬みをうまく隠しきれない会話に、彼女はいつもひとり参加できずにいた。
7
夕食の後、そばが小窓の外に置かれ、次の日の朝には雑煮と紅白のかまぼこ、黄金の数の子を母親が持ってきたので、「ああ、一年が終わったのか」とあらためて気づく。ネットでも、年末年始の浮かれた様子は十分に伝わっていたけれど、ネットでは十分に感じることはできない。
秋に母親が持ってきたみかんが、机の上で青緑色にカビていた。ぼくは、そのカビに、激しく、どうしようもないほど、羨望を感じていた。
「どんぶらこ、どんぶらこ」
時間の流れは止まらない。
8
「あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。おばあさんが洗濯をしていると、そこに大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきました」