小説

『ゴク・り』冬月木古(『桃太郎』『聖書』)

「お子さんはいらっしゃらないと養育費もかからなくていいわよね」
「え!?海外にいるとか聞いたことがあるけど」
「あ、そうなの」
「そういうことなんだ」
「やっぱり違うわよねぇ」

「どんぶらこ、どんぶらこ」
 お腰につけたきびだんご、ひとつくらい私にくださいな。
 まるで金環日食のように、大きな妬みをうまく隠しきれない会話に、彼女はいつもひとり参加できずにいた。



 夕食の後、そばが小窓の外に置かれ、次の日の朝には雑煮と紅白のかまぼこ、黄金の数の子を母親が持ってきたので、「ああ、一年が終わったのか」とあらためて気づく。ネットでも、年末年始の浮かれた様子は十分に伝わっていたけれど、ネットでは十分に感じることはできない。

 秋に母親が持ってきたみかんが、机の上で青緑色にカビていた。ぼくは、そのカビに、激しく、どうしようもないほど、羨望を感じていた。

「どんぶらこ、どんぶらこ」
 時間の流れは止まらない。



「あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。おばあさんが洗濯をしていると、そこに大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきました」

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