小説

『ゴク・り』冬月木古(『桃太郎』『聖書』)

「あ、虹」
「ほんとだぁ」
 子どもたちは無邪気に喜んでいる。
「どんな豪邸に生まれ変わるのかしらね」
 新たな生命の誕生より、新たな妬みの対象の誕生を、楽しみにしているのだ。

 
「お、おいっ、ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
 現場監督が慌ててユンボのオペレーター席に乗り込み、操作する腕をつかんだ。2階の北面のピンクの外壁が剥がされたときだった。

 現場監督はそのとき、不謹慎だが、桃太郎についてのブラックジョークを思いだした。おばあちゃんが大きな桃を割ったら、桃太郎ごと切ってしまって死んでしまった、というやつだ。

 そして数分後、けたたましいサイレンの音とともにパトカーが何台も到着した。

19

 テレビのドラマでしか見たことのなかった取調室の中に、いた。清森は、ここが部屋の中なのか、テレビの中なのか、そんなことを考えながら、刑事の質問に答えた。
「妻と共謀して子どもを殺しました。青酸カリを注入したリンゴを食べさせました」清森は自供した。

 現場監督が、解体中の部屋に女性が倒れているのを見つけた。黒い美しい髪の毛はロングで、後ろで一つに束ねていた。黒いタイトスカートをはき、ガーターベルトを装着した、白く細い脚が見えた。現場監督は、自分の安全確認不足が引き起こした事故だと思い、会社をクビになり、これからオレはどうしたらいいのだろうと、ひどくふさぎ込んでいた。簡単な事情聴取をされただけで、意外なほどすぐ帰された。自殺と断定されたからだ。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14