小説

『玉手箱の真意』よだか市蔵(『浦島太郎』)

 トメはその中から大型のアルバムを一冊手に取り、パタパタとページを捲った。
「これはねえ、私の孫が小さい頃の思い出を取っておいたものよ……ああ、これがその孫ね。中学生の頃よ」
 そこにはクラスの集合写真と生徒一人ひとりの顔写真が見開きにずらりと並んでいる。
「へえ、これは中学校の卒業アルバムですね。で、トメさんの孫は……おー、この子ですか。トメさんにはあまり似てないなあ」
 トメの指差すところを見ると、無造作に伸ばされた髪がまるでキノコのように厚ぼったい、なんとも根暗そうな少年がぎこちない笑顔を浮かべて写っていた。
 うーん、自分の子どもはもっと逞しくなるよう育てないと、などと考えていると、稜はふとあることに気が付いた。
「……って、あれ? これ、俺の卒業した中学だ」
「あら、あなたも孫と同じ中学校だったのね」
「ええ……って、それどころか、ひょっとして…………」
 ちょっと失礼、とアルバムを引き寄せてじっと眺める。
「やっぱりだ、これ、俺ですよ」
 トメの孫が写るのと同じページに、クラス中で一人だけ笑顔を浮かべずに、こちらを睨みつけるようにして写っている茶髪の生徒の顔がある。それが稜だった。
「この子がそうなの? 驚いたわ。稜君と孫は同じクラスだったのね」
「いやー、偶然ってあるもんですねえ」
 途端に懐かしくなって、アルバムの隅々まで目を通していく。
「ははっ、こんな奴いたなあ。うわー、この先生、いちいちウザかったよなあ。まだ生きてんのかな」
 稜は夢中になるあまり、トメが何かぼそりと呟いたのを聞き逃した。
「あ、すんません。今、何か言いました?」
 顔を上げてトメの方に向き直ると、常に微笑を浮かべているトメの顔から珍しく笑みが消えている。
「どうかしら、色々と……思いだす? 同じクラスだった孫のこととか……」
 稜はうっと口籠る。というのも、トメの孫だという少年のことは全然印象に無く、本当に同じクラスだったかすら疑わしいレベルだったからだ。
「あー……実は俺、中学校の頃は荒れてて、あんまり良い思い出が無いんですよ。何せ、卒業式も出なかったくらいだから。そんなこともあって、色々と記憶から消えてるものが多いんですよね…………」

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