「暗すぎる?」
「子供もさ、みるかも」
「えっ。子供も?」
「そう」
「いろんな童話の原作、知っているよね」
「元話かい」
「どれもこれもとまでは言わないけど。暗い。いや、残酷だよ」
「多いよね」
「みるの。子供ったって、13、4だろ」
「まあ、そんなところかな」
『 息子が中学3年になった。
その直後から、従順だった息子の反抗が始まった。
「うるせんだよ!」
大柄の男とさほど変わらぬ身長になっていた息子は、本気で男に殴りかかる仕草をした。
男は、そんな息子に恐ろしさなどは感じなかったが、豹変した、ちょっと前まで従順だった姿とのギャップに、驚きと戸惑いが押し寄せた。
「親に向かって、なんて口の利き方だ」
さすがに、殴りかかる仕草だけで、実際には父親である男には手を出さなかった。
「親面するんじゃーねーょ」
妻が動揺したまま、かろうじて、か細い声を出しながら、息子の腕を引いた。
「なんてこと言うの」
「バカヤロー!」
男のビンタが飛んだ。
一瞬の沈黙の後、拍子抜けするほど反抗する仕草もなく、息子は自分の部屋へ引きこもった。
しかし、これがぎりぎり維持されていた家
庭の崩壊への、ゴングだった。
結局、男が一人、マンションに残った。
二人は、妻の出身地である、北海道に移り住むこととなった。