小説

『豆の行方』多田正太郎(『追儺』森鴎外、『ジャックと豆の木』)

 そんな、余力と猶予が・・・。
 と、男は思った。
 そして、寝入っていた。

 インゲン豆を貪り食っていた。
 何皿も何皿も。
 なんぼ食っても、腹は満たされない。
 突然の、叫び声で目が覚めた。
 なぜか、ジャックの父親としてだ。
 死ぬ、朝だ。
 と、男は、感じだ。
 ぞろぞろと食い物を探す、群れの叫び声。
「食い物! 食い物! 食い物!」
 せわしく、食い物をあさる目が、ギラギラと、末期的な目線を漂わせて。
 既に、四足だ。
 その群れが、男に、向かってきた。
 男は、豆の木に飛びつき、登り続けた。
 登りながら、今朝のあの寝つきの。
 どんな、どんな、どんな・・・。
 を、思い出していた。
 天空の怪物に食われた、「ジャックと豆の木」の父親の死って、どんな死だった?
 猛烈に抵抗し、戦い、死んたのか?
 自分の死を、納得していたのか?
 まてよ、今、こうして天空に突き刺さった、豆の木を、登っている。
 なんで、この俺が?
 ジャックの父親?
 ジャック本人?

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