小説

『豆の行方』多田正太郎(『追儺』森鴎外、『ジャックと豆の木』)

『 男は、スコットランド人と、絶好の雰囲気の場所で、よくバグパイプを奏でた。
息子も、小型のバグパイフで、常に一緒に参加した記憶が、蘇っていた。
 覆った雲の間から、海に日の光がまだらに差し込むという、どこか宗教画に描かれたような空模様が、紺碧の色彩を、一層際立たせている。
 バグパイプを抱えた、男と息子。
 海が見渡せる丘の上。
「この辺でいいかなぁ」
 「ああ、いいね」
 息の合った音あわせが終わり、二人は曲を奏でだした。
《遠いエデン行きの~♪》
 輝く波間を、風が抜けてゆく。
 その先には、オレンジ色の太陽が、沈みつつあった。
 美しい、と男は思った。
 風が、吹き抜けていった。
 その風にのって、二人が奏でる曲が、何処までも穏やかに流れていった。』
 結び、これでいい。
 と、男は思った。
 そして、書き加えた。
『 「今、お金で食糧を買える人々も、いつまでも、買え続けるとは、思えません」
 餓死の現場からの帰り、案内人が、ポツリと口にした言葉は、決して架空の脅しでも、妄想でもない、と男は思った。
 いつか、食糧を他国に依存する国々に、多数の餓死者を、出すこととなる。
 こんな近未来の、魔のシナリオを、誰が自信を持って、否定できるだろうか。』
 男は、短編映画の、原作も、書き上げた。

 マホガニー製の、重厚なつくりのデスク上で、呼び出し音が鳴った。
「社長。依頼されていました作品。届きました。二つともです」
「わかった」と、男が答えた。

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