ヘブン・ゲートをくぐって右手側に、某有名チェーンのコンビニがある。
冬季限定のアイスを探してコンビニを渡り歩いていたわたしがそこで目撃したのは、いわゆる壁ドンをされたかんちゃんだった。
「エナ、今日は本当にいいんだよな」
「だから、先週はごめんって言ってるじゃん」
ウィンドウから漏れてくる蛍光灯の強い光が、二人の姿をくっきりと映し出す。
臙脂のダッフルコートに紺のティアードのミニスカート、細くて高いヒールのロングブーツに、不自然に艶々した唇、長い睫毛、人工的な陰影で強調された目元。可愛らしく着飾った菅田恵那。
そして、彼女を腕の中に囲い込んだ背の高い男も、わたしは知っていた。
だって、夕方までデートしていた相手だったから。
思わず足を止めたわたしに男が不審げな目を向け、ぎょっとした顔で凍りつく。
「ち、ゆきちゃん?」
「……邪魔してすみません。かんちゃんの彼氏って、東田先輩だったんですね」
完全に混乱した様子の東田先輩の手元から、小さな箱が転がり落ちる。
ライトに浮かび上がる文字は、『極薄』『いちごの香り』『0.1mm』『LOVE DREAM』。
「……へえ」
そういえば、ここはヘブン・ゲート。五百メートルぽっちのお手軽な天国通り。
そういうことのための、インスタントで卑猥な楽園。
ということは。先輩もかんちゃんも、そっち側の住人?
わたしは二人に近づき、小箱を拾い上げた。隣の七階建てのホテルのネオンが、ぽかんと立ち尽くすかんちゃんの白い手の甲に映りこんでいる。
ダッフルコートの裾をきつく握り締めて震える両手。親指のネイルがラメでキラキラ光っている。
「先輩、落し物ですよ」
緑のネオンを浴び、口元をヒクつかせているその目の前にコンドームの箱を突きつけてから、コートのポケットにねじ込んでやる。
それからその顔面に、思い切り鞄を叩きつけた。
「ぶっ」