小説

『ヘブン・ゲート』木江恭(『羅生門』芥川龍之介、『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

「はあ?人の話聞いてた?」
「いいじゃん。わたし、そもそもアイス買いに行って鉢合わせしちゃったんだよ。折角だし、一緒にアイス買いに行こ」
 昔、学校の帰りにこっそりしてたみたいに。
「……この寒いのに?」
「だからいいんじゃん」
 暫く睨み合ってから、かんちゃんは渋い顔で溜め息を吐いた。
「いいけど、じゃあ次は邪魔しないでよ」
「努力します」
 へらっと笑って答えると、切り替えの早いかんちゃんはさっさと歩き出した。アーケードの一番向こうにあるコンビニは、もちろん二十四時間営業だ。
「でもさ、かんちゃん、やっぱり諦めない?ホントは怖いんでしょ?」
「やだね。あんたこそ」
「やなこった」
 多分、わたしたちは気づいている。
 かんちゃんのやり方もわたしの言い分も、どっちもあまりに極端で、幼稚で、歪んでいることに。
 きっとこれからも、かんちゃんは無様にでも這い上がろうとする。わたしはそれを強引にでも引きずり下ろしたい。無茶な手段に訴えるかんちゃんが心配だから?否定はしないけれど、それだけじゃない。
 多分、大人になんてまだなってほしくないから。
 そうやってもたもたと足を引っ張り合っているうちに、わたしたちは否応なしに大人になってしまうんだろう。
 だけどわたしたちは後に引けない。だって、聞き分けのない子どもだから。
「かんちゃん、あのネックレスさ、ホントにお父さんに買ってもらったんでしょ?」
「……嘘はついてないよ」
「確かに」
 かんちゃんがニヤッと笑うので、わたしは吹き出した。
 わたしたちは並んで夜の底を進む。その行方は、誰も知らない。

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