小説

『ヘブン・ゲート』木江恭(『羅生門』芥川龍之介、『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

「疲れた。有り得ない。最悪、台無し」
「折角の、ロストバージンが?」
「さぶいぼ立つわ、その言い方」
 かんちゃんは本気で嫌そうに顔をしかめたけれど、否定はしなかった。わたしは予想が当たったことにほっとしながら、拳二つくらいの距離をあけてその隣に座る。
 かんちゃんからは、甘ったるい香水と煙草の匂いがした。
「千由紀のデート相手、祐介だったんだ?」
「ユースケ?」
「東田祐介。さっきあんたがバッグでぶっ叩いた相手」
「ああ、うん」
 頷いてから、はたと気付く。
「かんちゃん、何で今日デートしたって知ってるの」
「教室であンだけ大声あげてれば、嫌でも聞こえる」 
 ゆっこめ。だから静かにって言ったのに。
 そういえばあの時、かんちゃんはぎょっとした顔でわたしを眺めていたっけ。
「びっくり、した?」
「そりゃね。あの泣き虫ちぃちゃんが男とデートするなんて、人間変わるもんだよね」
 違う。変わったのは。
 派手になった外見、整えた爪で繰るファッション雑誌、昼休みに聞こえてくる『エナーズ』の甲高い笑い声。
「変わったのは、かんちゃんの方でしょ」
「そうかな」
「そうだよ。そんなカッコして、化粧もして、派手なコたちとつるんでさ。変わったよ」
「見た目だけ、ね」
 かんちゃんは、女優みたいな仕草で肩を竦めた。
「知ってる?いつも私の周りにいるコたち。あのコたちの何人かはエンコーしてて、ご飯を奢ってくれるパパを何人も持ってる。半分は中学のうちに初体験済み。もう半分は今年の夏にめでたくデビュー」
「……へえ」

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