小説

『ヘブン・ゲート』木江恭(『羅生門』芥川龍之介、『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

ツギクルバナー

 川江駅東口ロータリー前、七番通りの入口には、アーチ状の洒落た街灯がある。ヨーロッパ風の優雅な曲線を描くその街灯の呼び名は、ヘブン・ゲート。
 その先に続く五百メートルは、ネオンと欲望渦巻くホテル街。だから七番(セブン)とかけて、ヘブン・ゲートというわけ。
と、花も恥じらう高校一年生のわたしが解説するのも微妙な話だけれど、地元なら中学生でも知っている。週一回のティッシュ配りのバイトでも、『ヘブン・ゲートの周りには近づかないこと』が鉄則。実際そのあたりは、危ない感じのヤンキーとか挙動不審な男がうろついていて、ちょっとだけ怖い。
だから――ノルマがほとんど片付きかけた夜八時、見覚えのある背中がヘブン・ゲートを潜るのを見て、わたしは白い息を吐いてティッシュを取り落とした。
「……かんちゃん?」

「ちー、進路志望票出した?」
 言いながら、ゆっこが箸にウインナーを突き刺した。わたしは口の中のお米を頬袋にぐいっと押しやる。
「ん、まだ。確か今週中だよね」
「ゆっこ、刺し箸。行儀悪いよ」
 単語帳から目を離さずに、まよが淡々と指摘。ゆっこは慌ててウインナーを口に放り込んだ。
「で、まよは出したの?」
「昨日出したよ。どっち第一にするかで迷ったけど」
「大学と、看護学校だっけ」
 まよの夢は看護師だ。その目標は小学生の頃から一貫しているらしいけれど、最近は具体的な進路――看護学校に行くのか、大学の看護学科を選ぶのかで悩んでいる。いずれにしても狭き門なので、まよは常に単語帳や問題集を手放さない。
「取れる資格も違うし、就職したあとのお給料とかにも違いが出てくるから大学行きたいけど、学費の問題もあるからね」
「ふうん。まよ、ほんとしっかりしてるよねえ」

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