奥歯でストローを噛みながら顔をあげると、いつも通り『エナーズ』に囲まれたかんちゃんと視線があった。
何故かひどく驚いたように目を見開いて、わたしを見つめている。
一体どうしたんだろう?相変わらず、わたしたちは他人同然に口一つ利いていないのに。わたしは不思議に思いながら、かんちゃんを見返す。
それは、ほんの一瞬のことだった。
「ねえ、ちーはどうなの?先輩、アリ?アリアリ?」
ゆっこの声がわたしを引き戻し、
「エナ、ねえエナ聞いてた?ユイ、ついに彼氏とヤっちゃったらしいよ!」
艶やかな爪が伸ばされた指先が、かんちゃんの腕を掴んだから。
「ア、アリとかナシとか、考えたことないよ」
慌てて答えながら必死に澄ましたわたしの耳が、かんちゃんたちの声を拾う。
「ユイ意外に時間かかったねー。乙女ぶっちゃってさ」
「ね、エナはどうよ?最近彼氏と、やっぱもうヤバい感じ?」
「……そうだね」
かんちゃんが、笑いながら答える。
「もうヤッバいよ。こっちがついてけないくらい」
やだあ!やらしー!
「ちー?聞いてる?」
「あ、ああ、うん」
甲高い声にかき消されて、ゆっことまよが何を言っているのか全然聞き取れないまま、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
そして、土曜日。わたしは東田先輩と待ち合わせして、お洒落なイタリアンでランチを奢られ、肩を並べて恋愛映画を見て、暗がりで手を繋いだ。先輩の手はやっぱり大きくて、少しごつごつしていて、熱かった。先輩とは夕方に別れたが、来週カラオケに行く約束をした。
その夜、わたしはヘブン・ゲートで再びかんちゃんを見つけた。