わたしは思い切って、前から気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、先輩。先輩の、将来の夢って何ですか?」
「え、夢?うーん、何だろう。車関係の技術者、かな」
先輩は、ちょっと困った顔をした割にはすんなり答えた。
「もともと技術者になりたくて、今の学部を受けたようなものだし」
「そうなんですか」
「急にどうしたの?進路相談?」
「まあ、そんな感じです。学校に出さなくちゃいけなくて」
わたしは先週までに出さなければいけなかった進路志望票を、実はまだ提出していない。
「友達は目指すものがはっきりしてる感じなんですけど、わたしそういうの全然なくて」
十年後の自分をイメージしてみましょう。今、一番興味のあることは何ですか?
進路相談室の教師はそう言うけれど、わたしは再来月の学力試験で冷や汗をかく自分を想像するのが精一杯(特に数学。どうせ文系のわたしは受験にも使わないのに)。興味があるのは週刊連載漫画の続き――主人公はモンスターにぱっくり食われてしまうのか?その程度だ。
どうしてみんな、大人になった自分をそんなに簡単に思い描けるんだろう。
黙り込んでしまったわたしに、東田先輩は優しく微笑んだ。
「僕でよかったら、相談のるよ?力になりたいし」
「ホントですか?」
「よかったら今日このあと、少しお茶して話す?」
時計をみると七時半。東田先輩が手伝ってくれるなら、八時前には残りのノルマもさばけるだろう。
「はい、お願いします」
ちょうど電車が来たのか、改札口からばらばらと人が溢れてくる。さっさと手持ちの分を配ってしまうべく、わたしは気合を入れ直した。
「えええ!それって告白されたってこと!」
「しぃぃ!声大きいよ、ゆっこ」