就職。わたしにとってはまるでモンゴル語かスワヒリ語くらい遠い言葉を、まよは当然のように口にする。
「ゆっこは?」
「出したよ。絶対無理だけど国立で出したから、後で先生に呼ばれるかも」
重い溜め息は、いつも能天気なゆっこには珍しい。
「国立?初めて聞いた」
「親がね、とりあえず大学は行っとけって。でもパパとママでまた揉めててさあ。パパは短大でいいって言うし、ママは四大行けって言うし、でも浪人と私大は駄目だって、もう超ワガママじゃない?」
「うん……」
わたしは素知らぬ顔で卵焼きを噛み潰しながら、内心かなり驚いていた。
ゆっこは勉強嫌いを公言していて、夢は好きな人のお嫁さん――という名のリッチな専業主婦だ。そのゆっこが、進路についてこんなに現実的に悩んでいたなんて。
「ちーは?どうするつもり?」
「え?あ、と」
わたしが言葉に詰まった瞬間、斜め前の席からきゃああっと歓声が聞こえた。
「エナ!これブルームーンの新作でしょ!」
「石おっきい!キレイ!超いいなあ」
「すごおい、買ってもらったの?」
熱い視線の集まる先で、大きな青い石がきらきら光っている。
「うん、パパに買ってもらった」
得意げに笑ってネックレスをひけらかす彼女に、また悲鳴が上がった。
「聞いた?パパだって」
「彼氏持ちの癖に、お金持ちの『パパ』までいるわけ?ずっるい」
同性の同世代でも耳が痛くなるような甲高い声に、ゆっこが顔をしかめる。
「出たよ、エナーズ。ほんとうるさい」
「ゆっこもいい加減慣れたら?四月からずっとじゃん」
まよは全く動じる様子もなく、英単語をノートに書き出している。