それはそれは。狭い教室に机を並べて同じ授業を受けているというのに、まるで別世界。
「それで私に聞いてくるわけ。エナは最近どう?ハジメテってどうだった?マンネリの時ってどうしてる?昼休みに放課後にSNS、あっちでもこっちでも」
それは好奇心に見せかけたマウンティング。女の子の残酷なチームプレイ。
「まだ、なんて言えるわけないから適当に誤魔化してたら、今度はあのちぃちゃんにも男が出来るって?そりゃ、私だって焦るよね」
かんちゃんは自虐的な微笑みを浮かべる。
「だから、今日?」
「うん。ほんと言うと先週も行ったけど、結局シなかったから」
かんちゃんはコートの裾に手を伸ばしかけて、誤魔化すように髪を梳く。
やっぱり、先週の後ろ姿も見間違いじゃなかった。かんちゃんは、ゲートの向こう側に行こうとしていた。
「……かんちゃん、どうして?」
ヘブン・ゲートをこじ開けるの?
冷や汗をかいた手が震えるほど、怖がっている癖に。
「……つまんないから」
くっと眼差しを細め、冷めた無表情でかんちゃんは吐き捨てる。
「つまんない?」
「ちぃちゃん、子どもは不自由で退屈だよ。したいことがあっても障害が多すぎる。したくないことだって強要される。意味わかんない校則にダッサい制服、朝から晩まで硬い椅子に座って興味もない勉強を八時間、それを一体何年間?バカみたい」
どうして髪を染めてはいけないの?子どもにはまだ早い。どうして化粧をしてはいけないの?学生は学生らしくしなさい。どうして将来使うわけもない数式や古文を勉強しないといけないの?そういう決まりだから。
わたしたちの『どうして?』は、大抵そうやって黙殺される。
「私はね、ちぃちゃん。この地獄みたいな退屈から、早く自由になりたい。それには大人になるしかない。だから」
「だから、群れて、化粧して、ヒール履いて、男を作るわけ?かんちゃんにとっては、それが大人になるってことなの?」