小説

『こびとの町』卯月小夜子(『こびとの靴屋』)

「だれとも。もちろん、独り言も」
 ハンスのいたずらっぽい笑顔にエマの顔から緊張の色が抜けていった。
「今夜の出来は格別だぞ」
 ハンスは作業台の上を指差して微笑んだ。エマはハンスの胸に頭をもたせかけ、斬新なデザインの靴と誇らしげな夫の顔を交互に見た。
「あなた、生まれ変わったみたいね」
「ああ、もう昔のおれじゃないさ」ハンスはエマの髪にキスをした。「うまくいくから心配するなって言っただろ」
エマはきまり悪そうに微笑むと、夫の胸に顔をうずめた。
「そうだ、近いうちにシュミットのところに顔を出そう」
「それはいい考えね。シュミットさんのところ、今大変みたいだし」
「焦るな、時が来るのを待てって元気づけてやろう。あいつも近いうちに、おれみたいに生まれ変われる日が来るさ」ハンスは首の後ろに手を当てた。

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