小説

『エンマの戯』谷聡一郎(『地獄八景亡者戯』)

「で、なんじゃな、今日はすでにここまで盛り上がっておるんじゃ。わしが奢るから、今日は皆で目一杯呑み明かそうではないか。地獄の特上酒、大魔吟醸・人呑鬼と、それに合う最良の料理をごちそうしよう。なに金は心配するでない。我がエンマの財力、とくとご覧あれ」三毛猫がミャオと鳴いた。
 なるほど地獄の沙汰も銭次第である。エンマは竜神の娘の義理を最優先にしつつ、残りは銭と詭弁でまとめた。
 みなも詭弁とわかっておったが、もう、出口の見えぬ争いは勘弁であったし、疲れていた。みな苦笑いで納得した。かの死んだ人の子が生きようが死のうがどうでもよくなっていた。
 今日の一部始終を見聞きしていた番台の妖怪が日記帳にこう記した。
「人の子もまた賢者である」

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