「決めたの?」
「え、何を?」結城がとぼけて聞き返す。
「美玖って子との結婚」
さすが察しが早い。と感心した。だがここはきっぱりと言わなければならない。アヤのやり方を見ていて、そう感じたのだ。
「うん、結婚するつもりだ」
サトミは返事をしなかった。やはり正直に認められるとショックなのかもしれない。
結城は黙っているサトミに何か言おうかと思ったが、カブラギの言葉を思い出す。
「はっきり言ったら、言い訳がましいことは何も言わずに、相手の言葉を待ってください」
その通りにしている。それにしても長かった。サトミはサトミで考えているのだろう。
暫くしてサトミはバスタオルを外し服を着始めた。そして落ち着いた声で言った。
「分かった」
結城はほっとした。余りの素直な態度に小躍りしそうになったが、できるだけ冷静に言葉を返した。
「じゃあ、悪いけど帰る」
結城がドアの方に向かおうとすると、背中でサトミの声がした。
「一つだけ条件がある」
サトミには「結婚しよう」とか、指輪をプレゼントしたりしたことはない。友人に紹介したことすらないのだ。会うのはいつもホテルだった。証拠になる物は何一つ残して無いはずだ。だから訴えられることはないと思いながらも、サトミの性格なら金を要求されるかもしれないと思っていた。
「紹介して、美玖さん」
サトミは美玖に会ってみたいのだと言う。紹介してくれたら素直に分かれると言った。
「大丈夫、喧嘩したり、あなたとのことを暴露したりしないから」
信用できるはずはなかった。女はいざとなると何をするか分からない。結城は考えてみると言い残しサトミと別れた。