小説

『Dカンパニー』サクラギコウ(太宰治『グッド・バイ』)

「分かったよ、もう誘わない」結城が言うと
「何が分かったの!?」
 きつい言い方だった。もうお芝居は終わった。もういいよ、少し疲れた。結城がそんな表情をした時だった。アヤがつかつかつかと結城に近付き、思いっきり平手打ちをした。アヤは手に指輪をしていた、結城がプレゼントしたものだ。それが頬に当たり、大きな傷になった。だから出血した。叩かれたことより、赤い血に驚いた結城は動揺した。
「なにするんだ!」
「分からない? 美玖よ!」
「え?」
「本物の美玖なの!」
 結城はカブラギを探した。姿はどこにも見えなかった。もちろん美玖に化けたアヤは戻ってこなかった。
 美玖はA4の茶封筒から書類を出した。結城の身辺調査報告書だった。
「父から聞いたときは嘘だと思った。別れさせるための口実だって」
「で、でもどうして、ここに?」
「Dカンパニーに父が依頼したの。あなたと私を別れさせるために」
「え、て言うことは……」
 結城はやっと理解したのだ。Dカンパニーは結城と、美玖の父親の両方から依頼され、すべて100%解決する計画を立てたのだということを。

 あの日以来美玖と連絡が取れなくなった。もちろんアヤのあの白いアパートはもぬけの殻だ。結城は地方の営業所への左遷が決まった。そしてあれほどモテた結城は、どういうわけか女に相手にされなくなった。

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