小説

『Dカンパニー』サクラギコウ(太宰治『グッド・バイ』)

 レイカとの別れのプランは、やはりホテルの一室だった。結城とレイカがベットインしたところへ美玖に化けたアヤが乗り込み、暴れ罵倒して追い出す。それだけで人妻であるレイカは、夫や子どもに知られない最良の方法は、二度と結城と会わないことだと判断する筈だ。
「どうしたの、こんな時間に呼び出して」
 ホテルの部屋で会ったレイカは、愚痴っぽい言い方とは反して、結城とのデートに満更でもない態度だった。最近結城からの誘いがなく、不満に思っていたようだ。
「夫は帰りが遅いから、いいんだけど。子どもが帰って来る時間に家にいないのって、後でけっこう大変なのよね」
 レイカは聞きもしないことまで言いながらさっさとシャーワールームへ消えた。
 ベットでのレイカは積極的だった。
 ドアのノックの音がする。アヤだと思った。「誰か来た」結城が言うと
「いいわよほっとけば」と取り合わないレイカ。
 さらにノックの音が続く。諦めてもらったら困るのだ。結城は気が気ではない。
「気が散るから、出てみるよ」結城がベットから降りる。パンツを履いていると「なにやってるのよ!」とウザそうな声をだし、ベットからスルリと降りたレイカがドアに向かった。全裸だ。結城は慌ててジャケットを持ってレイカの肩に掛けた。
 ドアを少しだけ開けると、カブラギがホテルマンの姿で立っていた。
「お取込み中申し訳ありません」カブラギが頭を下げる。
「そう思ったら帰って!」
 レイカがドアを閉めようとした。素早くカブラギの足が伸び、ドアを閉めさせまいとする。ナイスタイミングだ。
「このお部屋から異常な音がすると、苦情がありまして」
「ハアー?」とレイカの態度が軟化した瞬間、一気にドアが開き、美玖に化けたアヤが入ってきた。
「なに、あんた!」
 レイナに掛けたジャケットは落ち、状況を把握しようとするレイナの眼が目まぐるしく動いていた。
 カブラギは静かに外からドアを閉めた。「後は宜しくお願いします」と結城にアイコンタクトを残して。

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