小説

『Dカンパニー』サクラギコウ(太宰治『グッド・バイ』)

  
 アヤは腕をからめることも無く、結城の少し後ろを歩いてついてきた。
 マユミからショートメールが入っていた。どうやらマックで待合せというのが気に入らないようだ。いつものバーで飲んでいるというメールが届く。結城はマユミを引き留めるメールを返す。
 待ち合わせの時間より、10分ほど遅れて、結城とアヤはマックに着いた。マユミはイライラした表情で結城を確認すると、すぐに立ち上がろうとした。しかし後ろに、なにやら地味な女がいるのに気付き座り直す。
 二人が座るとすぐに、アヤがマユミに切り出した。
「結城さんにストーカーするの、止めてください」少し訛っている。
マユミは一瞬「ハッ?」と声を出して、結城の顔を見た。
「マユミさんが、彼をすぎなのはよ~くわがります。でももう私という、彼女ができましたから」
「ハー? え、もしかしてどっきり? なんの冗談?」マユミが呆れ顔で訊いた。
「冗談じゃありません。これからは結城さんに近付かないでください」
「ちょっと、何か言いなさいよ、なにこの女⁉」
「あの、実は…新しい彼女なんだ」
「ハーーーーッ!」
 思わず出した大声に、周りの視線が集中した。マユミはそれに耐えられなくなったのか凄むような表情で「外へ出なさいよ!」と言った。アヤは構わず、ますます声を大きくして話を続けた。
「マユミさんが、他に彼氏がいないことは承知してます。でも結城さんはあなたを
愛してません」
 その言葉は思った以上にマユミを打ちのめしたようだ。
「あなたは結城さんから、結婚しようと言われたことありますか?」
「それは…」
「言わなかったのは、あなたを愛してもいないからです。身体です。身体だけの関係です」
 マユミは頬をぴくぴくさせながら、結城に「そうなの!?」と聞いた。結城は黙って頷いた。次の瞬間、マユミは立ち上がると同時に小さなテーブルの上のドリンクとポテトを払い落した。周りの人の眼が三人に集中した。
「別れたかったらはっきり言えばいいでしょ!」マユミが叫んだ。すでに周りの眼は気にならなくなっているようだ。

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