「この店で一番高いの欲しいな」
サクラの引きつる顔が視野の端の方にある。結城はまともに見られなかった。だがアヤは容赦なかった。
「あなたが元カノのサクラさん?」
サクラは肯定も否定もせずに、眼に涙を浮かべ始めた。泣くまいと必死に堪えているようだ。
「あのね、もうこの人には近づかないで欲しいんだけど」
これほどストレートに切り出すとは、結城はサクラが心配になってきた。できたらあまり傷付けずに別れたい女だ。
アヤはバックから小さな紙ときらきら光るペンを取り出しサクラに差し出した。
「これに、一筆書いて!」
「い、いや、そこまでしなくても」結城が止めようとするとアヤが結城を睨み、ピンヒールで結城の靴を踏んだ。ピンヒールは思っている以上に痛い。思わず悲鳴を上げた。
「こういうことは、はっきりさせておいた方がいいの!」
アヤが差し出した小さな紙切れは、どこかでもらったレシートの裏だ。
サクラは暫くアヤと結城を見ていたが「必要ありません。もう二度と連絡しませんから」と答えた。
サクラの潔い身の引き方に、結城はかえって未練が残った。一緒に歩くのは躊躇われる女だが、白い肌と意外なほどのふくよかな胸が思い出された。
店から出ると、しなだれるように歩いていたアヤが腕を放して言った。
「邪魔だけはしないでください!」
結城とアヤはこの日、二人目の女マユミと会うことになっていた。年は27才だ。
一流保険会社の社員でプライドが高かった。マユミとは退社後、結城とマユミが良く利用する、六本木にあるバーの近くのマクドナルドで待合せた。
アヤとは一度別れ、夕方駅で合流した。この時も結城はアヤだと気づかなかった。
リクルートスーツこそ着ていなかったが、初対面のときのように化粧っけがなく、服はもうダサイというレベルのものだ。結城はアヤと並んで歩くのを躊躇うほどだった。