小説

『赤ずきんと海の狼』酒井華蓮(『赤ずきん』)

また何か難しいことを言ってしまったかな。狼と人はやっぱり違うから、時々分からないことがあるようでそうなると黙ってしまう。
空が真っ青で綺麗ね、この赤い実は毒があるから食べちゃだめなんだよ、緑のお花なんて珍しいね。
どれも、彼には分からなかったみたいだ。
当たり前すぎて私がはしゃぐのが理解できなかったのかもしれない。
「ごめんね、このことは別にいいの。それよりほら、ねぇ、あの黄色い鳥、綺麗」
あ、だから。
鳥が綺麗とか言っても理解できないんだった。
「分からぬ」
「うん、そうだった。忘れてた。ごめんってば」
「人の考える事は、分からぬ」
すん、と鼻を鳴らして花畑に伏せってしまった。
目や口元に花がかかってしまって鬱陶しそう。そっと避けると、唐突に狼さんが口を開いた。
がぶり、と言うほどもなく軽く手を噛まれる。
「どうしたの?」
「このまま食ってやろうか」
「うーん、それもいいかも」
「ほう」
いいって言ったのに口を離された。
手の甲に少し歯の跡が残っている。
大きな歯をしてるんだなぁ。
「食われたいか」
「前も言ったけど私青が好きなの。赤が嫌いなのね。狼さん、とても綺麗な青だから食べられて狼さんの青になれるならいいなぁって」
狼さんの真っ黒な毛は陽が当たるときらきら、青に輝く。
調べたら、黒は黒過ぎると青っぽくなるらしい。

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