小説

『赤ずきんと海の狼』酒井華蓮(『赤ずきん』)

「おばあちゃんの所までおつかいに行ってきてね」
「はぁい」
おばあちゃんの所。ということは、あの赤い頭巾を被っていかなきゃ。
どこだっけ。最近被っていなかったからタンスの奥の方へいってしまったかもしれない。
探しているうちに同じことを思ったらしいお母さんがひょっこりドアから顔を覗かせた。
「ちゃんと赤ずきん被ってくのよ。おばあちゃん、折角貴女のために作ってくれたんだから」
「分かってるよう」
あった。スカートの下に隠れていた。
少し皺っぽい。手を入れてぱんぱんと伸ばす。
「結んであげるからいらっしゃい」
真っ赤な頭巾を持っていくと手早く顎の下でリボンが結ばれた。
これ、邪魔なんだよな。
結んで貰った後に少しだけ緩めた。
「じゃあ行ってきます」
行きたくないな、突然の雨、降らないかな。
でも玄関のドアを開けると昨日までのどしゃ降りが嘘みたいな暖かい陽射しが差し込んできた。
「気をつけてね。寄り道しちゃだめ、狼に食べられちゃうからね!」
「はいはい」
狼に食べられるなんて言ったって、でも本当に狼が人を騙したとか、食べたとか、そんな話は聞いたことはないのに。
だから一度会ってみたいな、そう思いながら赤いフードを脱いだ。
「おばあちゃんの家の近くまで行ったら被ればいいよね」
おばあちゃんは私のことが嫌いなんだ。
お母さんが一緒の時は優しいのに、二人になるとぐちぐち文句を言われるし、最近じゃ叩かれたりする。
私もお母さんには言ったりしないけどね。
気紛れなのか、私に作ってくれたずきんは初めて見た時思わず声を上げてしまったくらい赤い。
でも、こんな真っ赤なずきん、子供っぽくて恥ずかしい。

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