小説

『赤ずきんと海の狼』酒井華蓮(『赤ずきん』)

それに私、あまり赤が好きじゃない。
血の色。痛い。叩かれた所も赤くなる。
火の色。熱い。私、熱いのは嫌い。夏の太陽の色も同じ。
森にある赤い木の実も大体毒があるから食べちゃダメってお母さんが言ってた。
あ、夕焼けは好きかな。私は上手に描けないけど、とっても綺麗。
でも、青には敵いっこないわ。
空を見上げると今日は昨日までの雨が嘘みたいにすっかり晴れで、ふわふわとした雲がゆっくり流れている。
久しぶりの青空。気分が良い。
青の方が絶対良い。
晴れだったらみんな気分がいいでしょ?その色だし、見たことはないけれど、海も深い青だって本に書いてあった。空とは違う青で、絵本の中に描かれていた。
叩かれて赤くなった所だって、青くなってくればじきに治るってこと。
幸せの鳥も青だし、どうせなら青いずきんにしてくれればよかったのに。
「あ、そうだ」
青い花がたくさん咲いているお花畑があるんだった。最近、お母さんに内緒で寄り道して見つけた。
久しぶりに晴れて外に出たんだし、ちょっとくらい。長い雨でダメになっちゃってないかな。
そう思うとお母さんの言いつけなんて構っていられなくて、早足に真っ直ぐ行くはずの道を曲がっていた。
青なんて男っぽい。おばあちゃんが言うには、そうらしい。
女の子なら赤じゃないと。古い考えよ、そんなの。
「わぁ」
道が開けると前に来た時と変わらず、たくさんの青が咲いていた。
きっと、海ってこんな感じなんだろうな。
これだけ素敵なお花なら、おばあちゃんだって喜ぶと思う。
幸せの青。素敵な青。おすそ分けしよう。
木の根元に咲いているのが、とても深い青で綺麗。あれにしよう。
そうして近寄って見ると、木の後ろから大きな黒い影が出てきた。

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