小説

『赤ずきんと海の狼』酒井華蓮(『赤ずきん』)

でも尻尾がふわふわ揺れていたから手を振ってくれているのと同じかな?
とりあえず、急いで走った。
走って走って、ふと、お花結局摘んでないな。と、最初の目的を思い出した。
でも、よく考えたらあんな素敵なお花どこで摘んだか聞かれちゃうし、いっか。内緒にしとこう。
ふふ、と思わず笑うと、おばあちゃんの家の目印、大きな樫の木が見えてきた。
さて、頑張るぞ。
脚を止めて、赤い頭巾を被った。

「でね、おばあちゃんったらこれは身体に良いから全部飲みなさいって言って、真っ赤なスープを出してきたの」
「真っ赤」
「そう、真っ赤。しかもぐつぐつ熱くて、やっぱりね、凄く辛かった。でね、思わず辛いって言ったら、私が作った物に文句を付けるな!って、鍋さじで叩かれちゃって、おばあちゃんそのままずっと側に立ってるもんだから、頑張って飲んだよ」
あれから、晴れの日は出来るだけ用事を作ってこのお花畑に来るようにした。
狼さんは人に興味があったのかもしれない。
食おう、とはあの日しか言わなかった。私が話すのを時々問い返しながら座って話を聞いてくれる。
でもこの道はおばあちゃんの家に行く時しか通らないから、お母さんに用事を貰って、狼さんに会う前か後にはおばあちゃんに会わなきゃいけなかった。
もちろん狼さんがいない日もある。その時はハズレ。さっさと用事を済ませて家に帰る。
おばあちゃんが好きなのね、なんてお母さんに言われたけどとんでもない。
「では何故、行くのだ」
今日はこれからおばあちゃんの所へ行く日。
「え?だって狼さんに会えるから」
「違う。私に会うまでも通っていただろう」
「あぁ、それはね、お母さんのおつかい。でもこんなことされてるって聞いてもお母さん悲しむし、困っちゃうだけだから言わないんだ」
狼さんが黙ってしまった。

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