小説

『ツバメとおやゆび姫』五十嵐涼(『おやゆび姫』)

「和泉、明日一緒に東京に行かないか?」
 自分でもビックリしたが、考えるより先にもうその言葉が出ていた。
「明日さ、洋介さん、あ、ほら。ギターを教えてくれていた」
「うん、分かる」
「洋介さんから東京に会いに来いって言われているんだよ。和泉も一緒に行かないか?」
 さすがにこんな急な話に一つ返事で乗ってくる筈もなく、和泉は困った顔をしてみせた。
「行きたい……けど、明日はお葬式の片付けが」
「もう和泉の家じゃないって言われたんだろ?だったら家の主が掃除するのが当たり前だろ」
 ハッと大きく目を見開くと、彼女は力強く頷く。
「そうだね!もう私の家じゃないのに、私が掃除するなんて変だよね」
「だろ?一緒に行こうぜ洋介さんには僕から言っておくから!あと、スタジオに和泉が住めないかも聞いてみる」
 そうして僕らは翌日一緒に東京へ向かう事になった。

 
「江藤くん、久しぶりだね!!」
 玄関扉が開いた瞬間、満面の笑みの洋介さんが出迎えてくれた。
「お久しぶりです」
 久々に会う洋介さんは相変わらずで、ただ以前よりもっと目つきがしっかりしている様に感じた。
「わざわざありがとう。出来立ての事務所を江藤くんに見せたくて。あと、会って報告したい事があってさ」
「メジャー決定とかです?」
「あー、俺の台詞取っちゃ駄目じゃん。江藤くんは鋭いなー」
 ちぇーっと言いつつも、洋介さんは笑う。
「所で、その子がLINEで言っていた子?」
 僕の後ろにすっかり隠れてしまっている和泉をひょいと覗き込む。
「はい」

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