俺は、その男の姿を見てやろうと、窓辺へ飛んだ。
いるいる、見るからにむさ苦しい格好だ。
双眼鏡でこちらを伺いながら、肩からカメラをぶら下げている。
あのカメラで、有里香さんのお姿を撮ろうというのか。いやらしいヤツだ。
俺が刺して追い払ってやる。
それから、有里香さんの血をゆっくりいただくことにしよう。
しかし、男の血を吸っしまって腹が一杯になるのは好ましくない。ヤツを刺すだけ刺してかゆみの素の唾液だけ注入してやろう。うまく出来るかわからないが、誤って少しくらい血を飲んでしまっても、すぐに口針を抜けば腹一杯にはならないだろう。
ヤツがカメラを構えた。
窓から有里香さんが姿を見せたのだ。
視界が広い俺にはすべてが認識できた。
俺はヤツに突進し、頬に留まった。
明日、一日、蚊に刺されて腫れ上がったみっともない頬で暮らすがいい!
手の平で頬を叩く音が響いた。
俺は、蚊を叩くことにかけては天才的だ。頬に留まった蚊を羽音と皮膚の触感で位置を把握し、一発で叩きつぶすことができるのだ。
有里香さんが姿を見せたのだ。
先ほどは見とれてしまってカメラを構えるのを忘れてしまったが、今度はシャッターチャンスを逃すものか。
俺は、買ったばかりのカメラのレンズを有里香さんに向けた。
モニター画面にこちらを見て眉をひそめる有里香さんの顔が写った。
困った顔も激かわいい!
俺は夢中でシャッターを切った。
俺の肩を叩くヤツがいる。
誰だと思って振り向くと知らないおっさんが眉をつりあげて立っていた。