小説

『蚊』みなみまこと(『変身』フランツ・カフカ / 『カエルの王子』)

 こんな小説を読んだことがあったと思う。
 カフカの「変身」というヤツだ。
 ある朝、主人公のザムザが目を覚ますと、虫に変身している。
 今の俺と同じような状況だ。
 最後に主人公のザムザは、確か……死んじまうのだ!
 冗談ではない、このまま死んでたまるか!
 とにかく、元に戻る方法をさがさないといけない。
 ザムザは、部屋から出ることなく死んだ。
 俺は、部屋からでるぞ。
 俺は部屋のドアに向かって飛んだが、蚊の力では、ドアを開けることは不可能だった。
 俺は、脱力して急降下してしまい床にへたり込んだ。
 のっけからつまずきかよ。
 ふと、前を見るとドアの下に隙間があることに気が付いた。
 ドアと床がすれないようにすることと、家屋内の風通しをよくするために少し隙間が空いているのだ。
 蚊としては屈辱だが、這って外にでられるかもしれない。
 俺は蚊になってしまったが、普通の蚊とはちがう。
 知性を持った蚊だ。
 必要な合理性があれば、飛ぶことにはこだわらない。
 さすがに俺は、元人間だけに、蚊になっても知性を失っていないのだ。
 この知性を活かしてなんとか人間に戻る方法を探さなければならない。
 俺は、歩いてドアの隙間に向かった。
 しかし、歩きにくいな。
 蚊の足は歩くように出来ていないのだから仕方がない。
 俺は、ホコリにつまずきながら、部屋から出ることに成功した。
 廊下はリビングの方へつづいている。
 左右に妹の部屋と両親の寝室のドアがある。
 おれは、ぶぶぶぶぶーぶぶーんと羽音をさせながら、リビングの方向へ飛行し始めた。

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