小説

『どくサイト』夢遊貞丈(『どくめし』)

「ねえ! 開けて、大丈夫だから!」
いや、この声は……
 私は意を決して、扉を開ける。そこに居たのは、
「ああ、よかった、出てくれた。ええと、ごめんなさいね、あの、お姑さんは大丈夫だから」
 この人は、私にあのサイトを教えてくれた奥様だ。
「どうして……あなたが? まって、お母様は大丈夫って、本当なの?」
「本当よ。大丈夫、大丈夫だから。あのね、実は、あのサイト、全部ウソっぱちなの」
 頭がまだ追いつかない。
「嘘……?」
「そう、嘘。あのサイトで貴女の書き込みに返信していたのは、全部私と、私の友達なの。知らない人なんかじゃないの」
「あなたが……?」
「そうよ。それでね、私たちは、貴女とお姑さんが仲良くできる様に、なんとか仕向けたの」
「ワザと……あんなに汚い言葉で?」
「そうよ。嫌な思いをさせてしまってごめんなさい。でも、嫌な思いをしたって事は、ね、でしょ?」
 目の前の奥様は、優しい顔で微笑んだ。そっか……そういう事……
「あ、はは、あ、あの、ごめんなさい、ね、ご迷惑をおかけして……ああでも、本当に良かった……」
 なんだか、色々な事が一気に押し寄せて来て、何を言葉にしていいか分からない。涙も溢れ出てくる。でも、一番はやっぱり、まずはお母様が無事だったって事が嬉しかった。
「ふふ、お姑さんもね、ああ、探る様な事をして申し訳ないけれど……あなたが書き込む前にお姑さんがお家に帰ってしまってはいけないから、仕方なく私のお友達が貴女のお姑さんの事を尾行しているんだけどね、お姑さん、貴女の事、褒めて回っているそうよ。お気に入りの靴を自慢しながら、ね」
「お母……様……」

 後日、とある公園にて。どうやら、最近引っ越してきた奥様らしいのだけれど、
「実はね、ウチの姑がね、毎日毎日、うるさくって……」
「そう。それは大変ね……」
「そうなのよ、あら、お宅も?」
「ふふ、私も、ついこの間まで大変だったの。でもね、もう……」
「もう?」
「あ、そ、そうね。ああ、どうしようかしら、あまりお勧めは出来ない解決方法なのだけれど」
「解決方法? 何? そんなものがあるのだったら知りたいわ」
「あらあら……そうね、じゃあ、教えちゃおうかしら。でも、何度も言うけれど、お勧めは出来ない方法よ?」
 私は、そういって微笑み、奥様に〝あるサイト〟のアドレスが書かれた紙を差し出した。

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