小説

『どくサイト』夢遊貞丈(『どくめし』)

 私は、私なりに完璧に片付け、それから満を持してパソコンの電源を入れる。そして、さっき奥様からもらった、アドレスの書かれた紙を開き、そのページへアクセスした。
「ここが……あの奥様の言っていた『姑問題お悩みサイト』ね。えっと、ここに、私の愚痴を書き込めばいいのね……それで、」
 私は、慣れない手つきで昨日起こった事、姑の悪口や愚痴を書き込み終える。と、丁度、件の姑が帰宅した。
「あらあら、お帰りなさいお母様。今、冷たいお茶をご用意致しますね」
「嫌だねえ、何さいきなり……それに、今は温かいお茶が飲みたいんだよ! ほら、どきな!」
「あ、はい……」
 更に奥様に言われたのは、こうだった。愚痴を書き込んだ後は、出来るだけ、いつもよりも姑に優しく接する。そして、「私は悪くない」って気持ちを常に持ち、それでも訪れる姑の嫌がらせを受け、それをまた、あのサイトに書き込めばいい、との事。
 でもこれは……いつもよりもストレスが溜まるんじゃないだろうか。まあ、しばらくは続けてみよう。

 翌日、私は再びサイトへアクセスし、姑の悪口を書き込む。と、昨日、私が書き込んだ愚痴に対して、何件か返信が帰って来ていた。
―嫌な姑ですね。奥様の気持ちが痛いほど伝わってきました―
―いますよね、そういう人。それに耐えているあなたは立派です―
―頑張って下さいね。私達はあなたの味方です―
(まあ! 知らない人達から返事が! なるほど、これは知り合いの奥様と傷をなめ合うのとは別に、何かとても嬉しいわ!)
 なるほど、このサイトの意味を実感した。これなら、今までよりもずっと楽な気持ちで生活が出来そうな気がする。
 それから私は、毎日、毎日、そのサイトへ書き込んだ。その度に、
―いつも大変ですね。本当にどうしてその姑はいつもそうなのでしょうかね―
―きっと生まれた時からそういう人なんですよ。奥さん、頑張れ!―
―ここにはあなたの味方がたくさん居ますよ。どんどん書き込んで下さいね―

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