小説

『どくサイト』夢遊貞丈(『どくめし』)

『お夕飯、いつもよりも好感触でした。ただ、火の通し方を工夫しろ、と。今度、それを私に教えてくれるらしいです』
―それでも文句はあるんですね―
―今度教えるって……それ、味見の時に奥さんにだけ毒でも盛るつもりなんじゃないですか?!―
―悪人は悪人ですからね。大人しくても注意です―
「おかえりなさいませ、お母様」
「うん、ただいま。……そうそう、この靴、思ったよりも良いね。いいセンスじゃないか」
「え?! そ、そんな、お気に召して頂ければ、ああ、そ、それは良かったです!」
『今日、この間プレゼントした靴を褒められました。こんな事もあるんですね』
―あらあら、いよいよ何か企んでますねー……―
―やばいですって! 相手は人間が腐ったみたいな奴ですよ?!―
―うーん……これは……―
 ……なんか、何故だろう、今日はサイトの返信で、いつもみたいにスカッとした気持ちになれない。逆に……
(よし、今日はちょっと書き込むの止めよう。そんな気分じゃなくなっちゃった)

 翌日、私は新しい報告をしていないのに、一昨日の書き込みに、追加で返信が来ていた。
―あれ、今日は奥様の書き込みが無いですね―
―これ、本当にやばいやつじゃ……心配です!―
―ここはやはり、ワタシが動くしか無いですかね……―
 (動く? 何の事だろう……)
 私は、とりあえず、また書き込むのを止めた。むしろ、正直、書き込む愚痴も特に無かった。それどころか、今日はお昼ご飯後、食器を洗っている時に、突然、
「なあ、あんた、最近、料理の腕が上がったんじゃないかい?」
「い、いえそんな! この間、お母様から色々ご教授頂いたおかげです!」
「そんな事はないよ。あんたの努力の結果だ。息子はいい嫁を貰って幸せだね」
「……?!」
 え、嘘、うそ、そんな褒め言葉……あれ、なんだろう、ちょっと泣きそう。
「どうした?」

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