小説

『どくサイト』夢遊貞丈(『どくめし』)

 心強い返信が、毎回私の心を癒す。ああ、止められなくなってしまいそう。
 もちろん、書き込むだけでは無い。ちゃんと、姑に対しても、極力優しく接する。
「お母様、今日もお外へ出かけていたのね。きっとお疲れでしょうから、お風呂を沸かしてありますので、よければ……」
「なんだい! 今日はシャワーだけの気分だったのに、お湯が勿体ない!」
 あくる日も、
「お母様、今日は玄関先をいつもよりも念入りにお掃除したのですが、ダメなところがあれば……」
「ダメなところも何も、扉の外側に付いた薔薇の模様の隙間が全然綺麗になってなかったじゃないか! これなら逆に不自然だから掃除なんてしない方がいいかもね!」
 あくる日も、
「お母様、今日のお夕飯は、昨日ご注意頂いた様に、季節のお野菜も取り入れてみました」
「そりゃそうだね! それが出来なきゃただの馬鹿だからね!」
 あくる日も、
「お母様、少々、お靴がくたびれていましたので、新しい物を……前の物よりも歩きやすい構造になっている〝最新〟の物なので、きっとお気に召して頂けると……」
「何が〝最新〟だい! 普通のでいいんだよ、普通ので!」
 あくる日も、
「お母様、今日は息子のお遊戯会のカメラをわざわざ……申し訳ないです」
「べ、別に何も苦じゃないさ! あんたが畏まる必要なんてないだろうが!」
 その度、私はサイトへ書き込む。
『今日は、私が折角気をつかってお風呂を用意したのに、逆に何故か叱られました』
―それはお気の毒に。心中、お察しいたします―
―普通は感謝しますよねー。なんでいつもそうなのか、理解できません―
―やはり、みなさんの意見が普通なんですよね。まったく―
『住みやすい綺麗な家にする為、玄関先を掃除したのですが、一生懸命綺麗にした事は何も言われず、〝ドアの薔薇の模様が汚い〟という事だけを叱られました』
―お姑さんに、褒める、という回路は無いんですかね……―
―粗探しに命でもかけてるんですかね。最悪です―
―なるほど、そんな事が。ですが、自ら大変なお掃除を進み出た事、ワタシ達は心から称賛します。お疲れ様です―

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