小説

『心のこもった余興ムービー』村崎涼介(『桃太郎』)

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【1】 余興ムービー

 
 BGMは、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」第1楽章。明るく華やかなクラシックが聞こえる中、続々と新郎・百田(ももた)聖人(きよと)の関係者が動画に登場する。
 ――1人めは、D大学経済学部卒業の、竹中(たけなか)ミキさん。「キヨト君、ご結婚おめでとうございます。結婚されることを聞き、本当に、本当に、ビックリしました。いつまでも、笑顔溢れるお二人でいてくださいね」竹中の表情は、やり過ぎなくらい終始笑顔。
 ――2人め、新郎と同じ京都荒山(こうやま)大学文化学部卒業、新田(にった)レイラさん。「キヨト、元気にしていますか? 新田です。一緒に大学を卒業して、もう6年経ちましたね。最後に会ったのは、卒業してすぐ――」動きが止まる。そして、右頬を伝う一筋の涙。「ほんと、あの頃が懐かしいです。おめでとう、ございます」
 ――3人め、同大学経営学部卒業、金田(かねだ)スモモさん。「よく河原町や難波で遊んだね~。ほら、いつだっけ、三条の雑貨屋でブレスレット、買ったじゃん」左手首に付けた腕輪をカメラに見せる。「お守り代わりにしていまーす。心よりお祝い申し上げます。勿論、本心です」
 ――4人め、同大学外国語学部卒業、宇田島(うだじま)オトメさん。「ごめんね、メールしてくれたのに、返信してなくて。えーと――」そう言いながら自身の携帯電話を操作し、何かを探している。「画像、どこだっけ――」と呟きながら。「あ、これこれ」宇田島は、携帯電話の液晶画面をカメラに近付ける。「この前作った、ニョッキのトマト・クリーム・ソース掛け。オススメだよ。――あ、永遠に続くお幸せ、お祈りしています」
 動画はその後も続き、他大学の卒業生、美容師、看護士、ジム・インストラクター、歯科助手、の順で登場し、コメントした。
 ラストには画面一杯の黒い背景、中央に白文字で、
「ご結婚おめでとうございます 末永くお幸せに」
と表示され、終了。簡単なBGMと字幕以外、編集加工がされていない、味気ないムービーである。

 静まり返る室内。
 3人の女性が、PCの画面を覗き込んでいる。百田聖人の大学時代の友人、犬間(いぬま)美月(みつき)、猿渡(さるわたり)杏(あんず)、雉岡(きじおか)翼(つばさ)である。彼女たちのいる場所は、ミツキの住むアパート。明日3月28日に結婚式を挙げるキヨトへの余興ムービーを眺めていた。
「どう? 取り敢えずつなげて、文字と音楽入れただけだけど」と動画編集担当・ミツキが二人に感想を求める。
「大体良いんじゃない? これならバレないね」とアンズは満足げ。
「すごーい、こんなことできるんだー、すごーい」はしゃぐツバサ。「何だかお洒落だよね、すごーく、お洒落。すごーい」同じ言葉を連発する彼女に、慣れている二人はノーリアクション。
 キヨトと出会った切っ掛けは、大学1回生の時の、英語の授業。同じクラスになり、一緒に行動するようになった。大学を卒業する日まで。
 あれから約6年経っている。卒業前にそれぞれの関係が極度に悪化したので、4人全員で集まる機会は一度も無かった。それは、キヨトの女癖の悪さが原因である。彼女たち3人がこうして再会したのも、今月のこと。
 ミツキたちは口を揃えて、こう言う。
「キヨトは、女を不幸にする」
と。

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