小説

『心のこもった余興ムービー』村崎涼介(『桃太郎』)

【2】 みんな同じ

 
 さかのぼること、去年の12月。
 キヨトが来年3月に結婚する、とミツキは知った。情報源は、彼から届いた招待状。長らく忘れていた、昔の男の名前である。その案内に記載された、2次会へのお誘い。ミツキは、少しだけ迷ったので、すぐには出欠の回答をせず、放置しておいた。
 3月となり、キヨトからミツキに電話が入る。それは、2次会での余興をお願いするものだった。出席する前提で喋る彼の言葉の一つ一つに対し、苛立ちもしたが、――学生の頃から相変わらず憎めない男なので、ミツキは出席する意志を固め、彼からの依頼を引き受けた。また、この時の電話で、他にアンズやツバサも2次会に来るのをキヨトから聞いたことも、出席を決心した理由の一つである。大学時代の友人で声を掛けているのは、ミツキたち3人だけらしい。
 それにしても、急な依頼だとミツキは感じた。開催日まで既に1ヶ月を切っている。無理してあれこれ褒めてくる彼の声を聞き、「事前に余興を依頼していた人に断られたから、どうにでもなる私を選んだのだろう」と思いつつ、彼女はそのことには触れなかった。
 余興、何をしようか。今まで出席してきた2次会での出し物を参考にしようと、ミツキは昔を振り返る。
 カラオケだと、歌い手の上手い下手に左右される。楽器演奏では、練習する時間が足りない。寸劇、それは絶対嫌。最終的には、ムービー上映に決定した。では、どんな内容にするのか。
 新郎・キヨトにちなんだ作品なので、彼のことをメモ書きする。
 ・さわやか
 ・ダンスがうまい
 ・モテモテ
 ・熱く語る
 ・夢見すぎ
 ・急に落ち込む
 そこまで書いて、手を止める。大学時代の、彼と付き合っていた時期を思い出したのだ。アンズやツバサに内緒で、ミツキはキヨトと関係を持ち、半年間、大学を卒業するその日まで、続いた。よく二人で京都市内のカフェ巡りをして、美味しい紅茶を飲んだ。彼はニコニコしながら、ミツキの話を聞き、励ましてくれた。彼自身の悩みは抱え込んだままで。
 ・紅茶
 ・浮気
 当時、彼はアンズとも付き合っていた。卒業式当日、キヨトが間違ってミツキにメールを送信し、発覚する。元々アンズとは犬猿の仲だったので、その夜の飲み会は女同士での大乱闘となった。さらに、アンズだけでなく、他の学部の女子とも付き合っていることまで判明し、滅茶苦茶である。
 ・最低
 ・クズ
 今でも、キヨト以上に誰かを好きになったことは無い。なんだかそれが、ミツキにしてみれば腹立たしい。何故キヨトを好きになったのか。自身で書き連ねたメモを読み返す。分からない。
 あんな奴のために、お祝いムービーを作るのか?
 ――。
「あ、そうだ。いいこと、思い付いちゃった」
犬間美月の頭の中で、一つのアイデアが浮かぶ。
 彼女の悪戯心に、火が点いた。

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