小説

『どくサイト』夢遊貞丈(『どくめし』)

『今日はお夕飯を姑に言われた通りの形にして、お伺いを立てました。それでも、それが当然、と、一喝されました。出来なきゃ馬鹿だと』
―ご飯を作ってもらっているのにその態度―
―リクエストに答えても罵声って、じゃあどうすれば……―
―自信を持って下さい。貴女は何も悪い事はしていないんですから―
『姑の靴がダメになりかけていたので、最近話題の歩きやすい靴を近所の靴屋で購入し、プレゼントしました。しかし、〝最新〟というのが気に入らなかったらしく、普通のでいいんだ、と、怒鳴られました。靴はしっかり受け取っていましたが』
―文句を言った後、そのままそれを受け取る精神が分かりません―
―それでダメなら逆に何をすれば喜ぶんでしょう?! ひどい!―
―なるほどなるほど……プレゼントなんて最高の善意でしょうに―
『今日は、息子のお遊戯会があり、姑にカメラを回してもらいました。しかし、その事に対してお礼を言ったところ、またしても、怒鳴られました』
―うわー、お遊戯会の楽しかった気分が台無しですね―
―この間のプレゼントといい、今回のお礼の件といい、人の善意を素直に受け取れないなんて、クズですね―
―そうですかそうですか……頑張って下さい。きっと大丈夫です―
 しかし、そうして続けて行く中で、次第に、私の心持ち以外にも変化が現れた。
「お母様、お出かけになるのでしたら、今日は雨が降ると言っていたのでお傘を……」
「ん? そうかい。あー……ありがとうよ」
(あれ……)
『今日は、珍しく特に何も無く、姑が静かで素直でした。こんな日もあるんですね』
―へえ、逆に何か企んでるんじゃないかって疑っちゃいますね―
―ああ、きっと、いや絶対そうですって。だって今まで聞いていた感じ、正真正銘の糞ババアですもんね―
―気をつけて下さいね。油断はしちゃダメですよ―
(うん、そうね。あの姑の事だもの。確かに、油断は禁物ね)
「お母様、今日のお食事はどうでしょうか……」
「まあまあだよ。ただ、魚の火の通し方に工夫をするともっといいかもね。今度、あたしが教えてやるよ」
「は、はい……」

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