小説

『心のこもった余興ムービー』村崎涼介(『桃太郎』)

「発表できなかった余興ムービー、ミツキたち、新居に送りつけてくるかな?」
「それは無いよ。2次会で公開することに意味があるのに、後日、リアクションが見えないような、キヨトの家に送付しても、面白くないでしょ?」
 男と女。
 ツバサと関係を持ったのは、キヨトがブログをスタートさせる前の出来事だったので、ミツキたちにはバレていない。
「そろそろ行くわ。じゃあね」立ち去ろうとするツバサ。
 引き留めるキヨト。「もう帰るのか?」
「そう」彼女は素っ気ない。
「次はいつ会える?」
「さあ。分からない。――また、連絡する」
 歩き出す彼女に、背中越しに声を掛ける。「今日は、ありがと」
 その言葉を聞き、笑みを浮かべる自分に「馬鹿な女」と呆れながら、ツバサはエレベーターで1階へ下りた。

 同時刻。
 そこから歩いて1分も経たないくらい近所のビルにある、バー「ラビット」。そこが、ミツキたちの行きつけの店。
 まだツバサの姿は無い。
 酒を注文し終わったアンズとミツキは、テラス席に座っている。
 薄暗いその席から、夜の鴨川を見下ろすアンズ。「あーあ、ミツキがミスらなければ、こうはならなかったのになー」
「何? また蒸し返す気? その話題するなら、帰るよ」語気の荒いミツキが横目で彼女を見る。
「ゴメンゴメン。もう、どうでも良くなったから」
 丁度、注文したビールとナッツが届く。
 乾杯する女、二人。
 一気に酒を飲み干すミツキ。ジョッキを置き、一言。「ちょっと、安心した」
「え? 何が?」
「キヨトの奥さん、綺麗だったけど、結構怖そうだったから」
「確かに」何度も頷くアンズ。
「これからアイツ、奥さんに相当苦しめられるだろうから、気持ち、清々した。ざまあ見ろ、って感じ」
 アンズも、ビールをカラにする。「――。きっと奥さん、あれだよ」
「あれって?」
「ほら、何て言ったっけ? ――」
「何?」
「――鬼嫁」

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