小説

『心のこもった余興ムービー』村崎涼介(『桃太郎』)

 ツバサは、ミツキの家で完成版ディスクの差し替えをした後、念には念を入れ、ミツキのバッグの中も、チェックしていた。その際、ディスク・ケースに収納された「怪しげなDVD-R」を見つける。それに、どんなデータが記録されているのか、見た目では分からない。目の前のPCで確認している間に、ミツキはトイレから出てきてしまうだろう。「もしかして」と思い、ツバサはこれも、偽物と入れ替えておいたのだ。

 2次会の会場で、激しく口喧嘩を始めるミツキとアンズ。会場の音響設備から流れるウェディング・ソングが、掻き消されるくらいの声量で。そんな彼女たちを、笑顔でなだめるツバサ。
 キヨトが幹事に耳打ちする。
 3つめの余興は中止となり、その代わりに、披露宴で上映したプロフィール・ビデオが、プロジェクターでスクリーンへ投影された。

 余興の次は、プレゼント抽選会。
 事前に受付で出席者全員に、小さなナンバー・プレートを1枚ずつ配布している。これを使ったイベントだ。
 登場する大きな箱。その中に、番号を記載した紙切れが出席者の人数分だけ入っている。新郎新婦が箱の中に手を突っ込み、1枚ずつ紙を取り出す。それに記載された番号と同じプレートを持つ人が、豪華景品をプレゼントされる。景品には最新型の掃除機から駄菓子まで、色々と取り揃えている。
 ミツキやアンズは、何も期待していない。当たる訳がない。小声で未だに喧嘩を続ける二人だったが、
 見事、景品をゲット。
 しかも、ミツキやアンズ、ツバサまでも。
 ミツキは、高級紅茶の詰め合わせセット。
 アンズは、知る人ぞ知る日本酒「美青年」。
 そしてツバサは、ブランドものの新作スカーフ。
 ミツキやアンズは喜ぶ反面、この状況に戸惑った。何故なら、二人とも「以前から欲しかったもの」を貰えたから。仕組まれた結果だと確信していたが、周りの目を気にして、気付いていないフリをする。
 ミツキたちの想像通りである。前もってツバサから3人それぞれの番号をキヨトは聞いていた。その番号を紙に書いて、抽選時、彼自身の拳の中にそれを隠したまま箱に手を入れ、ゆっくり手を抜き出す。あたかも箱の中から抜き取り、選んだかのように振る舞った。
 これは、キヨトが彼女たちに当初からプレゼントしたかった品物を、堂々と皆の前で手渡すために取った行動だった。「特定の女性のために準備した」と愛理に知られるのを恐れている。

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