小説

『心のこもった余興ムービー』村崎涼介(『桃太郎』)

 2日後、ミツキは久しぶりに、アンズと再会する。
 待ち合わせ場所は、京都駅ビル内のカフェ。
 呼び出された方のアンズは、仕事帰り。再会を喜ぶこともなく、ミツキと目を合わせない。
 ミツキは、キヨトに余興を頼まれたこと、そして、ムービーを作成することを伝えた。話を聞いているのか、いないのか、無反応のアンズ。
 しかし、ミツキの考えた「ムービーの内容」を聞いている最中に、アンズは目を見開き、ゆっくりと視線を合わせる。内容、それは、
「キヨトと関係のあった女から、お祝いコメントを貰う」
というものだった。事情を知らない人が動画を見ても気付かれないように、上手く言葉の表現を調整しつつも、公の場で遠回しに女性関係をバラす。
 そんなことをするミツキの目的は、キヨトたった一人を、驚かせ、焦らせ、その顔を眺めること。
 アンズもまた、キヨトに何らかの形で仕返しをしたい、と卒業直後は思っていた。6年も経過すると、そんな気持ちは見えなくなってしまったが、消えてはいなかった。ふつふつと感情がたぎってくる。
「ミツキのことは嫌いだよ、今でも。――だけど、それ、面白いじゃん。徹底的にやろうよ。協力する」
 こんなにあっさり仲間になってくれるとは、思っていなかったミツキだが、懐かしい雰囲気で心強く感じた。
 ミツキ、アンズと来れば、残りはツバサ。早速電話を掛け、彼女も計画に誘ってみた。すると、仕事の忙しさを理由に「3月中旬からの途中参加」という条件付きでOKした。

 過去にキヨトと関係のあった女性を捜すのは、とても簡単である。彼が大学時代からこっそり更新していたブログを見るだけで、事足りる。ミツキは大学卒業後に、キヨトの友達から教えてもらったのだが、抱いた相手がキヨトにとって初回であれば、記念としてその翌日に、ブログへ「その女性とのツーショット画像を掲載する」らしい。そんな馬鹿な、とミツキは耳を疑ったが、「自分とはどうだったか」と気になり調べてみると、それが真実であるとはっきりした。彼の行動に悪意があるのか、どうなのか、キヨトにしてみればコレクション程度の感覚。今でも時々、ブログの画像に女性が登場している。
 動画作成の作業としては、まず、ミツキとアンズが、過去のブログ画像を参考に、友達を経由してでも連絡の付く女性をピックアップする。続いて、彼女たち一人一人に連絡を取り、キヨトへのコメントを依頼する。
「2次会のお祝いVTRとして、あのクソ野郎に心を込めて一言、お願いします」
数多くの関係者の中から、ミツキたちの計画に賛同し、受けてくれた人物は9人。充分である。

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