「なんでふたり・・・。どっちが、わたし・・・」
美希はふたりを見比べる。
「本当に残念ですが」
誰かの声が空に響いた。
「おひとりを助けるのが精一杯でした」
「香織は大丈夫なんでしょうか」
お父さん? 美希は思う。潰されそうな胸からしぼり出すように、お父さんの低い声がうなった。
「奥様はまだ麻酔で眠っておられますが、しばらくお休みなれば」
「ひとりは助かったんですね」
「今、新生児室に」
五時を知らせる童謡のように、声は夕焼け空に反響し、そのままぼやけるように消えていく。
美希の目の前にはもう、ひとりの赤ちゃんしか残っていない。
「あの子の中に、ふたつの命が生きてるのよ」
今度はお母さんの声が響いた。白い布団に守られて、その子は小さな目をうとうとさせている。頭の上に掛かる札には「立花美希ちゃん」と書かれていた。
「ちょっと美希、大丈夫なの?」
目を開けるとお母さんが部屋に入ってくるところだった。まだ頭がぼんやりする。どうやらベッドの上に横になっているらしかった。
「ノックしても返事しないから。ねえ、聞こえてる?」
見上げる天井と美希の間に、お母さんが顔を出す。
「うん・・・」
はっきりしないまま身体を起こすと、美希は自分のお腹の上に小さな桐の箱が置いてあるのに気がついた。見覚えのある箱だった。どこかで確か、いつもなんだろうと思って・・・。ああ、これって仏壇に置いてあるあの、お母さんがいつも数珠をしまってる・・・。朦朧とした意識のまま、美希は桐の箱に手を掛ける。
「開けちゃだめ」
お母さんの声がした。