『子供心』
伊藤円
(『浦島太郎』)
砂場でいじめられっ子の亀田を助けた太郎。お礼に家に招待されるが、そこは漬物のような匂いが漂う薄暗い町の小さな建物だった。騒がしい弟たち、時代遅れのゲーム機、異様に薄い麦茶。中流家庭の子 太郎の“異世界”体験記。
『ろうそく心中』
木江恭
(『赤い蝋燭と人魚』小川未明)
魚吉の葬式。長年の友 高五郎は遺言通り彼の手に赤いろうそくを握らせて海に沈め、故人が集めた無数のろうそくで送り火を焚いた。不意に高五郎が思い出したのは、魚吉が過去を語った夜のことだった。
『檸檬を持って大海原へ』
薮竹小径
(『檸檬』梶井基次郎)
ゴールデンウィーク直前。大学の講義。教授の声はかすかにしか聞こえない。パチンコ玉を耳栓代わりに『檸檬』を読む友人。ふと目についた黒い大きな鞄。友人は確信に満ちた声で断言する。「爆弾に違いない。」
『復讐』
笹本佳史
(『桃太郎』)
英雄となった桃太郎に、ある日一通の手紙が届く。差出人は、鬼が島で唯一生き残った女の鬼。そこには、決戦の記憶とその後の彼女の人生、さらに、桃太郎の”出生の秘密”ともいうべき内容が記されていたのだった。
『桃太郎の真実』
広都悠里
(『桃太郎』)
鬼退治へ向かう桃太郎と犬、猿、雉。鬼が島で暮らす鬼。家で待つおじいさん、おばあさん。それぞれの思惑が複雑に交錯し、疑心暗鬼が広がる。誰が本当のことを言っているのか、嘘をついているのは誰なのか。
『観音になったチューすけの話』
入江巽
(狂言『仏師』)
俺たちは半年間、「仏師作戦」と名付けた計画のため、ひたすらに準備のし続けやった。三十三間堂にも三十回以上は通い、忍び込むための予行練習も、何度も夜中行った。そして今日。時間が止まった世界、今度は動かしたんねん。
『魔法は使えなくてよかった』
白土夏海
(『白雪姫』)
鏡はずっと罪悪感に苛まれていた。王妃に世界一美しい女性を問われ、白雪姫と答えてしまったことを。そのことで多くの人々が不幸になった。彼は今、ホストになり、全ての女性に答え続ける。「一番美しい人はあなたです。」
『リバーサイド』
柏原克行
(『賽の河原』)
”親不孝”の報いを受けるという三途の川にある賽の河原。そんなところにも高齢化は波及。親子三代揃って積み石を続ける重治、重雄、重蔵は、あるときついに、待ちに待った解放のチャンスを迎えるのだが・・・
『カウンツ』
こがめみく
(『番町皿屋敷』)
レコード店に夜な夜な響く喉をひねり潰したような叫び声。レコード番号を数える店長キクさんの慟哭らしい。彼に本当に足りないもの、欠けているものは何なのか。レコードから流れる音楽が空気を満たす。
『HANA』
結城紫雄
(『鼻』芥川龍之介)
女子高生のハナは、顔もまずまず、そこそこモテて、成績も中の上。だけど、とっても胸が小さい。そんな彼女の誕生日に友人たちがプレゼントしたのは「おっぱいを大きくする薬」。翌朝目覚めた彼女の胸は・・・
『かぐや姫として生きてみる』
吉田大介
(『竹取物語』)
「そうだ、俺はかぐや姫であった。」ある日、中年男は自分こそがかぐや姫である、という設定で生きることにした。様々なシチュエーションに妄想を膨らませる男。自分は姫だから求婚相手は男?入手不可能な難題はどうする?
『赤いブラジャー』
五十嵐涼
(『赤い靴』)
家族は皆外出し、一人自宅に残された中年男性。ついに長年の願望を叶えるチャンス到来!とばかりに、上半身裸で鏡の前に立つ。その手には、赤いブラジャー。「いや、オレは…変態じゃない、オレは変態じゃない」