小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 それに幸太郎は学校ではちょっとした有名人だった。もちろん悪い意味で。その幸太郎と関わるのが嫌だった。学校ではあまり目立たないほうが身の為だった。目立たず自分たちのテリトリーだけを守っていればいい、これが三年間でシュンスケが学んだことだった。
 それに今は受験で忙しい、三年間引きこもって寝てばかりいた旧友をかまっている暇などない。シュンスケは私立大の付属高校を狙っていた。高校へ入ればエスカレーター式に有名私立大学へ行ける。ここで頑張らないと自分の将来に暗雲が立ち込める。あと3カ月。ここが正念場。
「ほら、シュンスケ時間じかん」
 母親の言葉で我に帰る。やばい急がなくては電車に間に合わない。

 駅に着いた。反対側のドアが開く。シホが乗ってくる。シュンスケと目が合うと、目で挨拶してくる。シュンスケも目だけでおはよう、と返す。すぐにシホは窓の外を向いて携帯に目を落とす。
 シュンスケの胸ポケットに入れていた携帯のバイブがブルルっと鳴った。
 シホからだった。シホからのおはようのメール。これから駅三つ、メールでのやりとりが続く。
 シホとは半年前から付き合いだした。
 学校では校則で淫らな男女関係は禁止とある。いまどきどんな学校だと疑われるのだが。だから学校にばれたらまずい。
 もうひとつ理由があって、シホの女友だちに遠慮したからだった。中学生は友だちの世界が全てだった。そこで爪弾きにされるともうこの世の終わりみたいなものだ。とくに女友だちの関係は複雑なようで、仲の良いクラスのグループだけでなく、学年全体を含め、そのグループ同士にも上下関係や横の繋がりがあった。その微妙な力関係を崩すと、思わぬグループにも影響を及ぼすのだそうだ。
 

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